KISSIN' MY LIPSが提示するあたらしいジェンダー・パフォーマンス

 
Snow Manのラウール君がDiorとコラボレーションしましたね!
(いつの話題だよと言われてしまいそうですが...)
コラボ動画も本当に素敵で、改めてラウール君のスター性と「魅せる」技術力の高さを実感しました。何回でも見ちゃう。使用されてるリップも本当にかわいくて、自担と同じコスメ使えるラウール担が羨ましい限りです。
 
近年、こうして有名コスメブランドのプロモーションでも男性モデルが起用されていたり、メンズラインのコスメが出されるなど、メンズメイク市場に非常に注目が集まっている印象です。
 
 
近年のファッション業界では、 
genderless(ジェンダーレス:性差のない)
androgynous(アンドロジナス:両性的な)
gender fruid(流動的なジェンダー)
といった単語が注目を浴びているようです。身体的な性差、もしくは文化的・社会的に規定されたジェンダーにこだわらない、典動的な「男らしさ」/「女らしさ」の枠組みを攪乱するような、その境界線をもてあそぶようなファッションの在り方に注目が集まっています。
男性のメイク市場に注目が集まっているのも、そうしたファッション界のトレンドの動きや、近年の世界的なK-popブームの影響があるのではないでしょうか。
以前は好奇の視線を向けられ、「男性らしさ」の欠如のように語られていた男性のメイク文化も、徐々にではありますが、ジェンダーに規定されないような「美を楽しむ行為」「なりたい自分になる行為」として浸透しつつあるのかな、といった印象です。
 
Diorのプロモーションに16歳の男性であるラウール君が起用されたことも、そうした業界の流れを感じます。
 
ところで、ジャニーズ×リップのCMといえば、90年代にカネボウの「Super Lip」のCMで起用されたキムタクが思い浮かびます。
キムタク全盛期の頃のCMで、真赤なリップを塗る姿はまさに美の化身といっても過言ではないくらいです。見て。
 
CMは2パターンあるのですが、
パターン①、ベッドで寝ている裸のキムタク。隣では、パートナーの女性が上半身を起こし、リップを塗る。女性は手に持っていたリップを寝ているキムタクの唇に塗る。キムタクは途中で目を覚まし、「なにすんだよ」とけだるげに女性の手を掴む。笑ったような、女性の真赤な唇が映し出される。
 
パターン②、上半身裸のキムタクが画面のこちら側に真赤なリップの先端を向ける。それを引っ込めると、カメラ目線のまま自分の唇にリップを引き、唇をすり合わせる。画面が変わり、女性の唇にリップを塗るキムタクが斜め下のアングルから映し出される。女性の真赤な唇が映し出される。
 
 
どちらのパターンも最後はカメラ目線のキムタクの「スーパーリップで、攻めてこい」というセリフで終わります。タイアップ曲はSMAPの「胸さわぎを頼むよ」。すこし不器用な、けれども一途に相手の女性のことを思う男性目線のラブソングです。
このCMは男性アイドルが「女性用の」化粧品を身にまとうセンセーショナルなものとして当時話題になったようです。
 
 
 
そして20年以上経過した2020年。
DiorのリップのCMに、Snow Manのラウール君が起用されました。
こちらのプロモーション動画がカネボウのCMと異なるところは、男性と化粧品の関係性ではないかなと思います。
カネボウのCMがあくまで「メイクをする女性」と「女性のパートナーであり、女性が使用しているリップを、女性との戯れにおいて使用する男性(=キムタク)」という対比だったのに対し、
Diorは「リップを使用する男性(=ラウール君)」を描いている。
キムタクは女性パートナーの存在から異性愛者であるということが提示され、またリップの使用も女性ありきであるということが描かれていますが、ラウール君は主体的にリップを使用し、自身有りげに自らの身体でパフォーマンスする存在として表現されています。そこに、女性パートナーのある種言い訳じみた提示は必要とされていないのです。男性が自分のためにリップを使用するというDiorのプロモーションは、広告対象を女性に限定せず、どのようなジェンダーにもひらかれたものとして作られている点がとても新鮮でした。そして、アイドルを起用しながらも、その存在が異性の欲望のもとに客体化されたアイドルとしてではなく、自分の身体を自分の意思で魅力的に魅せるひとりのパフォーマーとして、主体的に表現されているところがとても新鮮でした。
 
 
 
ジェンダー学の理論家の中にジュディス・バトラーという人がいます。その人が90年代に提唱した「ジェンダーパフォーマティブ」という概念があります。ジェンダーとは、生物学的(身体的)性とは別に、社会的的・文化的・歴史的に構築される性のことです。たとえば誰かが自分のことを「男である」と思うとき、もしくは誰かが他人に「男である」と思われるとき、生物学的根拠(男性器を持つとか)以外の「男」の構成要素、これがジェンダーになります。ある社会における「男らしさ」などもこれにあたります。さて、「ジェンダーパフォーマティブ」という概念によれば、ジェンダーというものは、その人のさまざまな行為の原点となるようなある1つの安定したアイデンティティであるというより、その人が行為をある一定のかたちで反復して遂行する(パフォーマンスする)ことで、社会的に作り出されるかりそめのものにすぎないと述べました。つまり男は男というジェンダーを持っていて、それは揺らがない事実である、ということはないわけです。「男である」ということは、その人がさまざまな身振り、動き、演技をパフォーマンスすることにより日々「男である」状態が構成されているということです。そして、そうした社会においてはそのパフォーマンスの性別を「間違える」ことは非難の対象となります。「男」である人が、「男らしい」パフォーマンスをせずに、「女らしい」パフォーマンスをしてしまうことは、社会にとって「逸脱行為」であると捉えられてしまいます。たとえば、お化粧をする男性や、男装をする女性などが、「逸脱者」としてレッテルをはられていた時代がありました。社会は「逸脱行為」を非難し処罰することで、実はかりそめのものにすぎないジェンダーという枠組みの効力を維持しようとするのです。そう考えたバトラーは、ジェンダーの枠組みを揺るがすようなさまざまな種類の行為/演技の遂行によって文化的な場が拡張されることを求めました。
 
こうしたジェンダー論の流れ、パフォーマティブジェンダーに向けての現代社会の挑戦が近年のファッションのトレンドに反映され、またDiorのプロモーションにも反映されたのかと感じました。
 
タイアップ曲であるSnow Manの「KISSIN' MY LIPS」も、歌番組で発表された当初からそうした「ジェンダーレス」な読みに開かれている曲としてとらえていた方が多かったように思います。
全編英語の歌詞。
ワールドワイドな進出を視野に入れているなあと感じたのですが、英語にすることで「I」と「You」の性別が断定されない、とても多様な読み方ができる楽曲になっているのではないかと感じました。男性目線の女性/男性に向けた歌、女性目線の男性/女性に向けた歌、それとも...。こういった様々な読みの可能性に開かれている曲。そもそも、曲の中でそれらが流動的に変わっていく、gender fruidな可能性だってあるはずです。
 
 
Something new
You know what we gotta do
Let's have it all
I see the way you're looking at me
 
一番の歌いだしは、恋人同士のロマンティックでセクシーな誘惑の場面である、と読み取ることができるでしょうか。
私は、観客の欲望のもとに客体化されるアイドルという存在が、そのパフォーマンスの主体性を取り戻す一説にも思えました。Something newとは、そうした期待、あるいは規範を超えるようななにか新しいこと、新しいパフォーマンスであり、それをするよ、しようよ、という誘惑の一節なんじゃないかな〜とも思ったり。「これからすることわかるよね」「全部しようよ」
そう読むと、I see the way you're looking at meも、どんなふうにぼく(たち)を見ているのか知っているけど、I'll never be the same 同じ自分ではない、ぼく(たち)は常に変化し続けるから、Baby you can just count on me then ただ身をゆだねて、ついてきて、という宣言、受け身としてつくられた受動的なアイドルではなく、新しい多様なパフォーマンスの世界に逆にファンを誘うような主体性の提示とも読みとれるのではないかと思いました。
 
Don't care who you used to be
Enough of that
「きみの過去なんて気にしないよ もうたくさんさ」という、包容力のある男性のイメージも想起させると同時に、
「あなたが過去どんな人だったか(どう在ったか)なんて気にしないし、どうでもいいこと。(大切なのはいまあなたがどう在るのかということ)」というメッセージ性も読み取れます。クィア的な読みの可能性にも開けていると感じたのは、ここからです。
 
Kissin' my lips Kissin' my heart
Can't get enough
There is no need to be afraid
これはどなたかがツイッターでおっしゃっていてなるほどと思ったのですが、I kiss youではなくyou kiss meなのですね。恋愛の主導権を握る、行為の主導権を握るという伝統的な男性ジェンダーを撹乱するような、受け身のキス。曲のタイトルからも、そうしたあたらしさが感じられます。
 
Everybody be saying slow down
Just take my hand and speed up
No need to look back
Can you hear me
Let me know your secrets
「みんなは落ち着けっていうけど
ただぼくの手を取って そしてスピードをあげて
振り返る必要なんてない
わかった? きみの秘密を教えてよ」
 
The nights get lonely oh yeah (The nights get lonely)
But those nights over, you're safe, oh yeah
I'm right here for you, so take my hand babe
「さみしさに暮れた夜はもうおしまい もう大丈夫
ぼくがここにいるよ だからぼくの手を取って」
 
ここはアイドル・Snow Manとyou(ファン)に置き換えて読んでもよろしいか…?😭🙏という感じなのですが、楽曲についてあれこれ妄想するのは自由ですので、そう読ませていただきますね。
 
 
こうしたパフォーマティブジェンダーの提示は、ダンスにも表れていると感じました。
クロバットや一体感のあるフォーメーションで、集団としての力や技術を魅せるダンスではなく、個々が自分の身体・魅力をセクシーにアピールするような、バーレスクダンスにも似た印象を受けるもの。とくに印象深かったのが、サビの「Kissin' my lips~」部分でのお化粧の振り付け。メンバーそれぞれの個性も出ていてワクワクしました。
 
 
以上、Diorのプロモーション、歌詞、そしてダンス。これらから、KISSIN' MY LIPSは「男性から女性への、ロマンチックでセクシーな愛の曲」としてだけではなく、「パフォーマティブ、かつフルイッド(流動的)なジェンダー的な読みができる曲」なんじゃないかな〜、そしてもしかしたら「アイドル・Snow Manとしての宣言の曲」という、深読みもできるんじゃないかな〜と感じた次第です。
 
とにかく良曲だなあと思ったし、フル尺・フルメンバーでの公開が楽しみです💛
 
※追記 2020・10・9
KISSIN’ MY LIPS発売おめでとうございます!
私も購入したので、僭越ながら歌詞の全訳をしてみました。
 

something new
You know what we gotta do
Let’s have it all
I see the way you’re looking at me

なんだか新しい気分

これからすることわかるよね

全部しようよ

きみのまなざしを感じている
Oh I love the way
Your lips say my name
I’ll never be the same
Baby you can just count on me then

きみが名前を呼ぶ それがすごく愛おしい

同じところにとどまるつもりはないから

ただ身を任せてついてきてよ
Every time I’m wanting more Every time I know
Tell me baby now Oh yeah

知るたびにもっともっと欲しくなってしまうんだ

ねえ 教えてよ
Don’t care who you used to be
Enough of that

きみの過去がどうだとか そういうのはもううんざり
Come with me I’ll show ya
Things you only dreamed of
Your mouths made to kiss me

ついてきてよ きみが夢でしか見たことのなかったようなものを見せるよ

きみのくちびるはぼくにキスするためにある
Kissin’ my lips
Kissin’ my heart
Can’t get enough
There is no need to be afraid

くちびるにキスを ハートにキスを

まだまだ足りない 恐れる必要なんてなにもない
Everybody be saying slow down
Just take my hand and speed up
No need to look back
Can you hear me
Let me know your secrets

みんなは落ち着けっていうけど
ただ手を取って そしてスピードをあげていこう
振り返る必要なんてない
わかった? きみの秘密を教えてよ

Feel excitement in the air?
Well girl I feel it too
It’s under over inside and out
No way that I’m hiding from you

この昂りを感じる? まあわかるよ 同じ気持ち

どこを探してみたって きみから隠れられっこない
All my friends are jealous of
The way that you move your body
Baby I know just what they mean

友達はみんな嫉妬してるんだ

きみのその体の動きに

彼らの言いたいことがなんなのかわかるよ
Now you can barely believe
Hearts pounding fast
We’re just getting started
Bright light, city’s all ours
Your eyes are saying
Kiss me girl

信じられないかもしれないけれど

心臓はスピードを上げていく

ぼくらはまだ始めたばかり

あのきらめく光だって街だって ぜんぶぼくらのものなんだよ

きみの瞳が訴えている キスしてと



The nights get lonely oh yeah
But those nights are over,
you’re safe, oh yeah
I’m right here for you
So take my hand babe

さみしさに暮れた夜はもうおしまい

もう大丈夫
きみのためここにいるよ

だから手を取って
 
Turn off the breaks, cruisin’ the city
Nothing to worry ’bout as long as you with me
Higher we go we can’t see the floor

But one day not far

We’re going straight to mars

休んでないで 街へ繰り出そう

ぼくといる限り心配はいらない

ぼくら 高くのぼるたびに

フロアーは見えなくなっちゃって 
火星までひとっとびするのもそう遠くない未来
Yeah it’s our time
No left it feels right
Two people find the time to combine
One of a kind play no rewind
Feeling of your lips on mine
Nothings out of our reach

ぼくらの時間さ

なにも残さないのがしっくりくるね

ふたりはひとつになるときをみつけた

誰も真似できないオリジナルのたわむれで やりなおしはなし

きみのくちびるを感じているよ

だれもぼくらに届きっこない

Oh I know you gonna love it
Baby you know that I’ve got it
Tell me what you want
Oh I know you gonna love it
Baby you know that I’ve got it
Let me know your secrets

きみもきっと気に入るよ

ねえ ぼくが手にしたこと知っているでしょう

何が欲しいのか教えてよ

きみもきっと好きになる わかるんだ

ねえ わかるでしょう 手に入れたって

きみの秘密を教えてよ